※こちらの記事は、これから知的財産について学んでみたい方、知財業務に最近関わり始めた方等、知財や特許初心者の方にご参照いただける記事として作成しました。特許出願から権利化までの流れをざっくりと知り、主要な注意点を確認したい際、最初の一歩として、ぜひご活用ください。
まずは、以下のモデルケースで、特許出願が、審査を経て権利化されるまでの流れの概要をご説明します。こちらのモデルケースでは、全体の流れ、各期限、費用発生のタイミングをご確認いただけます。
特許出願後、特許権を取得するためには、特許庁審査官による審査で各種要件を満たしていると判断される必要があります。この審査を希望するには、特許出願から3年以内に出願審査請求をします。
特許出願した内容について拒絶理由が発見された場合、拒絶理由通知が送付されます。最初の拒絶理由通知を受け取るまでの期間は、審査請求より平均約10か月です(実際に送付されるまでの期間は案件によりバラつきがあります)。
拒絶理由通知に対し、出願人は、発明の内容等を変更するための補正書、拒絶理由を解消していることを主張する意見書等の応答書類を提出できます。応答書類提出のための期間は、拒絶理由通知の発送から60日以内で、2カ月の期間延長申請が可能です。
拒絶理由が解消し特許査定になると、30日以内に特許料を納付することで設定登録されます。拒絶理由が解消できず拒絶査定になった場合は、審判請求が可能です。
以上の手続きに要する費用は、特許庁に支払う印紙代(庁費用)と、代理人に対する手数料の2つに大別できます。庁費用のうち審査請求料や審判請求料は、それぞれ審査請求時と審判請求時における請求項(クレーム)の数により費用が変動します。このため審査請求時や審判請求時は、特許請求の範囲の見直しをする良いタイミングになります。
1. 出願公開
出願日から1年6カ月経過後、特許出願の内容が公開されます。
出願公開されると、特許出願時に提出した、図面、詳しい発明内容を記載した明細書、権利を取得したい範囲を記載した特許請求の範囲等は、J-PlatPat等のプラットフォームを通じて、誰でも検索して閲覧できる状態になります。(J-PlatPat:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)
特許出願書類には、発明を説明するための十分な記載が必要である一方、出願公開により公になることを考慮した実務上の工夫が行われています(例えば、明細書に記載しなくとも発明を十分に説明できるノウハウは、記載の省略を検討する等)。
2. 出願審査請求
出願審査請求は、出願日から3年以内に提出できます。早く権利化したい場合には、早期審査制度の利用が検討されます。早期審査は、対応する外国出願がある案件、既に発明を実施している(又は2年以内に実施予定の)案件、省エネ等のグリーン発明に関する案件、中小企業等の出願人が含まれる案件等、所定の要件を満たす場合に認められます。早期審査の対象になると、審査請求から最初の拒絶理由を受け取るまでの期間が、平均約2~3か月に短縮されます。(特許庁「特許出願の早期審査・早期審理について」:https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/soki/v3souki.html )
クレーム中にマルチマルチクレームが含まれる案件は、審査において所定の制限を受ける可能性があります。具体的には、マルチマルチクレームについて新規性や進歩性等の特許要件が判断されない、拒絶理由通知に対する応答時に、補正できる範囲が限定的になる、等の制限が挙げられます。このためマルチマルチクレームは、遅くとも審査開始前までに審査対象中に含まれないようにしておくことが推奨されます。(特許庁「マルチマルチクレームの制限について」:https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/letter/multimultichecker.html )
審査請求時の庁費用につきましては、上記の目安等もご参照ください。また、中小企業やスタートアップ企業等では、料金の軽減等の措置を受けられる場合があります。※2019年より申請手続きが簡素化されています。(特許庁「特許料等の減免制度」:https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/genmen/genmensochi.html)
3. 拒絶理由通知の対応
審査請求後、審査官の審査により、権利化できない理由(拒絶理由)があると判断された場合には、拒絶理由通知が送付されます。
この記事では、手続の流れのご説明に注力すべく、具体的な拒絶理由のご説明は省略しますが、拒絶理由としては、新規性、進歩性、記載要件のいずれかを指摘されることが大半です。新規性の想定し得るトラブル事例として「特許出願前に学会発表や展示会出展していたことが、出願後に発覚した」場合等が挙げられます。このように、出願公開前は、特許出願する発明の内容の取扱いについて十分な留意が必要です。
拒絶理由通知が送付されるまでの期間は、案件によって異なりますが、平均期間は審査請求から約10か月です。応答期間は60日で、2か月の期間延長申請(引用された発明との対比実験を行うとの理由)が可能です。延長手続きの庁費用は2100円です。
2回目以降の拒絶理由通知に対する補正は、場合により、補正可能な範囲が制限されることがあります。このため、場合によっては、一回目の審査において通知された拒絶理由通知(最初の拒絶理由通知)において、先の審査経過を見通した十分な補正を準備するおくことも、大切になる場合があります。
4. 特許査定~登録
拒絶理由が解消し又は拒絶理由がなく、特許査定を受領した場合、30日以内に特許料を納付することで設定登録されて、特許権を取得できます。
発明の切り口を代えて多面的な保護を図りたい案件等について、特許査定時に分割出願をするチャンスがあります。ただし、設定登録前に分割出願をする必要がある点に留意が必要です。つまり特許査定後の分割出願は、早期の意思決定が必要です。
設定登録後の名義変更手続きは有料で煩雑になりますので、出願段階で行われた名義変更は特許査定の頃までに変更手続きを完了することが推奨されます。
中国や米国と同様に、日本でも特許証の電子発行が開始されています(2024年4月~)。
登録後、特許掲載公報が発行されてから6月の間、第三者は特許の見直しを求める異議申立をすることが可能です。異議申立結果の統計は上記の通り、請求項等の訂正をすることなく、又は、訂正をした結果、特許権が維持された案件が全体の85%を超えており、高い権利維持率となっています。
5. 拒絶査定後
拒絶理由に対する応答では拒絶理由が解消せず、拒絶査定になったときには、拒絶査定不服審判の請求が可能です。審判請求と同時に補正をすると、審査官による再審査(前置審査)が行われます。前置審査が行われた場合の特許査定率は約50%以上となっています。
最初の拒絶査定から3月以内は、分割出願が可能です。3月の期間経過後は、その出願について分割出願の機会が発生しない可能性がある点に留意が必要です。つまり、最後の分割出願の機会になるかもしれません。
拒絶査定後に分割出願をした場合、2024年4月1日から始まった新たな運用を利用して、原出願の審判結果を踏まえた分割出願の内容検討も可能になります。新たな運用については、こちらの記事もご参照ください。