経済安全保障推進法による「特許出願非公開制度」は、本年2024年5月1日に施行が迫ってまいりました。本制度の概要は、同制度における外国出願の禁止と併せて、以下記事でご説明しております。https://www.jpn.takaokalaw.jp/2023/11/30/secret_patent/
本記事では、以下のように特許出願非公開制度の流れを大きく4つのステップに場合分けし、各ステップにおける主な確認事項等を内閣府HPに掲載されている各資料の内容に沿ってご説明します。
《ステップ1:保全審査の対象になるか否か(一次審査)》
上記図のとおり、大半の特許出願は通常どおりの手続きが進められる(保全審査に付されない)見込みであり、本制度の適用対象は年間約0.1%程度とも言われています。このため、ステップ1の一次審査の概要把握が、本制度のご確認における重要ポイントになります。下記資料には「どういった技術分野及び条件に該当する発明が保全審査(二次審査)に付されるか」が示されています。
資料:内閣府「特定分野と付加要件」
上記資料P.2に記載の「(1)~(25)に該当する技術分野の発明であるか否か」を確認することで、保全審査の対象になりそうか否かをご確認いただけます。なお、「(10)~(19)に示された技術分野」は、同資料P.3に記載の「要件①~③のいずれかに該当するもの」に限って、保全審査の付与対象になります。
保全審査が必要と判断されたときは、その旨が出願人に通知されますが、保全審査に付されない場合は、原則として通知はありません。なお、保全審査に付される場合は、「3か月以内」に特許庁から内閣府への書類の送付が行われることが法令で定められています。
《ステップ2:保全指定されるか(二次審査)》
保全審査手続きや保全指定についての詳細は、以下の資料に示されています。
資料:内閣府「経済安全保障推進法の特許出願の非公開に関する制度のQ&A」
保全審査中に留保される手続きは「拒絶査定」「特許査定」及び「出願公開」です。このため、保全審査中に特許権を取得することはできませんが、手続補正、出願審査請求、拒絶理由通知等の手続きは進めることができます(上記資料Q3-9)。
特定技術分野に該当する発明の記載を除いて分割出願した場合、分割出願は保全審査に付されません。つまり、分割出願により、保全指定の対象外となる発明のみ手続きを進めていく対応が可能です(上記資料Q3-8)。
保全指定後は特許出願の取下げができなくなりますが、保全審査中は特許出願の取下げが可能です。特許出願を取り下げた場合、公開禁止等の制限はない一方、第一国出願義務は生じます(上記資料Q3-10)。
保全審査中、内閣総理大臣は、保全指定をしようとする場合、保全対象発明となり得る発明の内容を通知するとともに、特許出願を維持するか取り下げるかの確認をします(上記資料Q3-11)。
保全審査の所要期間は法律上の上限がありませんが、外国出願の禁止が解除される特許出願後「10か月」の間に、保全審査を終えることが実務上想定されています(上記資料Q3-2)。
保全指定の通知には、「保全対象発明の内容及び明細書等において当該保全対象発明が記載されている箇所」が記載されます(上記資料Q4-2)。
保全指定された場合、保全指定の期間は個々の事案によって異なります。保全指定の期間中、少なくとも1年ごとに保全指定を継続する必要があるかどうか検討されます。保全指定を継続する必要がなくなれば、期間満了し、保全指定が終了します(上記資料Q4-1)。
保全指定を受けた場合、出願審査請求は、特許出願の日から3年を経過した日又は保全指定の解除又は期間満了の通知を受けた日から3か月を経過した日のうちいずれか遅い日まで行うことができます(上記資料Q4-7)。
《ステップ3:適正管理措置の体制を構築する》
保全指定を受けた発明については、外国出願の禁止を含め、発明実施の許可制、発明内容の開示の原則禁止、情報漏洩防止のための適切な措置を講じる義務等の制約が生じます(上記資料Q4-4)。
適正管理措置の準備には一定期間を要することが想定されており、適正管理措置の整備のために活用可能なガイドラインが以下に示されています。
資料:内閣府「特許出願の非公開に関する制度における適正管理措置に関するガイドライン(第1版)」
《ステップ4:保全指定により損失が発生したか》
保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対する補償について、補償の対象や請求方法、具体的な事例等が、以下に示されています。
資料:内閣府「損失の補償に関するQ&A」
保全指定された発明について、実施が許可されず、保全指定期間中に国内外で製品の製造、販売できなくなった場合の逸失利益等について、損失の発生が社会通念上相当と言える範囲で補償の対象になります(上記資料Q2)。
補償を受けようとする者は、発生した損失に基づき、補償請求額を算出し、疎明資料を添付して提出します(上記資料Q4)。補償金額は、請求人の提出内容を精査し、特許出願人と意思疎通を図りつつ、関係省庁や専門家の意見を聞きながら、内閣総理大臣(内閣府の審査担当部門)が算定して決定されます(上記資料Q6)。