① 先発明者先願主義
先発明者先願主義(first-inventor-to-file)は、日欧で採用されている先願主義に近づけつつ、発明者に1年の絶対的グレースピリオドを与える主義である。これはわが国でいう先願主義(first-to-file)とは、異なる。先発明者先願主義は、出願日前1年以内に対して絶対的なグレースピリオドを付与する。例えば、発明者が最初の開示(disclosure)をしてから1年以内に米国特許出願をした場合、たとえ第三者の開示がその1年以内にあったとしても、特許を受けられる。このため、先発明者先願主義を、先公表主義、先開示主義などと呼ぶ有識者もいる。これに対して、日本の先願主義はグレースピリオドは先願主義の例外とはならず、発明者が最初の開示(disclosure)をしてから6ヶ月以内に日本で特許出願をした場合、たとえ第三者の開示(または先願)がその6ヶ月以内にあった場合は、特許を受けらない。
② 先発明主義の並存
過去の米国特許法の特徴として最も重要なのは先発明主義(first-to-invent)であった。すなわち、旧法では米国は,最先の発明者のみが特許を受けられるという先発明主義を採用していた。先発明主義は2013年3月16日よりも前の出願には依然として適用されるため、旧法のもとで出され審査に係属している出願、旧法下で発行された特許の特許要件は、先発明主義に基づいて判断される。特に、現在存続している特許の有効性について争いが生じたときは、先発明主義のもとで判断されることになる。
実際のところ、先発明者先願主義の下で特許が付与されることになるのは数年先であり、存続しているすべての特許が先発明主義から先発明者先願主義に完全に入れ代わるには、存続期間の調整(patent term adjustment)や延長(patent term extension)を含めて考えると、二十数年以上かかることになる。なお、先発明主義はいうまでもなく新規性や非自明性の要件と密接に関係しているため、今後20年以上は、米国は2つの特許法並存という難しい問題を抱えることになる。
③ 全出願審査主義
米国には審査請求制度はなく、特許出願が提出されると,全出願に対して審査が直ちに開始される「全出願審査主義」を採用している。なお、日本では審査請求制度を採用している。日本では、特許出願されたものは、全てが審査されるわけではなく、出願人または第三者が審査請求料を払って出願審査の請求があったものだけが審査されることとなっている。
④ 情報開示義務
米国の特許出願人は,自ら知っている先行技術文献を審査官に情報開示陳述書によって提出しなければならない義務を負っている(規則1.56)。特許庁を欺く意図をもって情報開示を怠った場合は,詐欺(fraud)として権利行使が認められない(MPEP2016)。
⑤ 継続出願
米国では、親出願の出願日の利益を享受する継続的な出願(Continuing Application)をすることができる。継続的な出願は,主に、以下のもの分類される。
- 一部継続出願(CIP: continuation-in-part application)
- 分割出願(divisional application)
- 継続出願(continuation application)
- 審査継続出願(CPA: continued prosecution application:現在は廃止されているが、従来もっとも利用されていた継続出願)
また,継続的な出願に類似した手続として,継続審査請求 (request for continued examination: RCE)がある。また、CPAは現在は廃止されているが、従来はCPAを繰り返す手法が主流であったため、現存特許の審査経過を分析するときには、CPAの理解は不可欠である。
⑥ 多彩なポストグラント手続
特許が付与された後の手続として、多彩な手続が用意されている。具体的には以下の各種手続があり、目的や用途に合わせて選択する。
- 付与後レビュー(post grant review)
- 当事者系レビュー(inter partes review)
- 冒認手続(derivation proceeding)
- ビジネス方法レビュー(business method review)
- 補充審査(supplemental examination)
- 再発行(reissue)
- 査定系再審査(ex part reexamination)