米国特許出願を提出するとき,および出願後,出願人は情報開示陳述書(Information Disclosure Statement)を提出しなければならない。出願人は,自ら知っている先行技術文献を審査官に情報開示陳述書によって提出しなければならない義務を負っている。情報開示を怠った場合は,不公正な行為為(inequitable conduct)または詐欺(フロード:fraud)として権利行使が認められない。
(1)開示しなければならない情報
開示すべき情報は,特許性の審査に関して重要な情報である。「重要」とは,単独または他の情報との組み合わせにより拒絶理由をなす程度の関連性があることをいう。例えば、関連する外国出願(例えば,日本出願,欧州特許出願など)の審査で引用された先行技術は、開示すべきである。また,対応外国出願のサーチレポート,拒絶理由通知,異議申立てに係る通知,審判における通知などすべて速やかに開示をする。
(2)情報開示が必要な出願
通常の特許出願および再発行特許出願については情報開示の義務がある。仮出願では情報開示の義務はない。審査継続出願(CPA),一部継続出願(CIP),分割出願については,親出願で考慮された情報については再度開示する必要はない。
国際出願から米国に移行した特許出願については,審査官は国際調査で引用された文献を考慮して審査を行い,最初の拒絶理由通知のときにその検討結果を通知する。したがって,国際調査で引用された文献については情報開示をする必要はない。
(3)情報開示の時期
① 原則
特許証の発行まで,情報開示の義務を負う。
② 最初の拒絶理由通知前
情報開示陳述書を,次のいずれか遅いときまでに提出すれば,無料で提出することができる。
- 出願日から3カ月以内
- 国際出願の国内段階への移行日から3カ月以内
- 最初の拒絶理由通知の郵送前
- 継続審査請求(RCE)の後,最初の拒絶理由通知の郵送前
③ 最後の拒絶理由通知前
前記期間の経過後,情報開示陳述書を次のいずれか早いときまで,提出すれば,審査官によって考慮される。
- 最後の拒絶理由通知の郵送前
- 特許査定通知の郵送前
④ 特許料の支払い前
前記期間が経過した後,特許料の支払い前では,情報開示陳述書を提出すれば,審査官によって考慮される。
⑤ 特許証の発行前
前記期間が経過した後,特許証の発行前では,情報陳述書を提出しても審査官に考慮してもらえない。審査官に情報を考慮してもらうためには,継続審査請求(RCE)をして情報開示をするしかない。
⑥ 査定系再審査
査定系再審査においては,再審査命令の日から2カ月以内,または情報の入手後できるだけ早く提出することが望ましい。
(4)情報開示の方法
情報開示陳述書として,所定の様式にしたがった情報のリストを提出する。このリストにおいて,情報の種類に応じて以下の情報を記載する。
- 米国特許・・・発明者の氏名,特許番号および発行日
- 米国特許公開公報・・・出願人の氏名,公開番号および公開日
- 米国特許出願・・・・出願人の氏名,出願番号および出願日
- 外国特許(または外国公開公報)・・・公開した国または特許庁,文献番号および公開日
- 刊行物・・・発行者,(可能ならば)著者名,タイトル,ページ番号,日付および公開の場所
情報開示陳述書には,開示する情報のコピーを添付する。ただし、その情報が米国特許または米国特許公開公報である場合、コピーの添付は不要である。
その情報が非英語文献であるときは,原則として,その翻訳文提出は要求されない。ただし,その英訳文を保有しているか,またはすぐに提出できる状態にあれば,そのコピーを提出しなければならない。翻訳文の提出は義務ではないが,出願人自身の意思で翻訳文を作成し,提出することはできる。
非英語文献の翻訳文の提出は要求されないが,その情報の関連性について簡潔な説明を提出しなければならない。説明は簡潔なもので足り,例えば文献の関連性のある部分を特定し、クレームされた発明と関連性があると陳述する。前述の簡単な説明は英文要約で代用できる。
(5)情報開示義務の違反とその治癒
情報開示義務を怠ると,不公正な行為(inequitable conduct)または詐欺(fraud:フロード)として権利行使ができない。したがって,情報開示義務を誠実に遂行することが重要である。
ところで、出願人に欺く意図があったかどうかを判断するためには、裁判諸は個人の主観的な意図まで判断しなければならないからである。このような主観的な問題は、出願人の心理状態にまで踏み込んでいかなければならず、結果として特許侵害訴訟を複雑にし、費用を高額なものとする原因となっていたという批判があった。
現在では補充審査(supplemental examination)が導入されており、特許権者は不公正な行為の根拠となる情報(例えば、情報開示をしなかった先行技術)を提出し、事後的に考慮してもらうことができる。