欧州における特許制度は、各国の条約などの影響を受け、変化を続けている。その中でも、近年では、欧州単一効特許(European Patent with Unitary Effect)と統一特許裁判所(Unified Patent Court)の導入に向け、議論が進められている。
1.現行ルートとその問題
現在、利用されている欧州出願ルートには、権利を取得したい国毎に出願を行う方法と、欧州特許条約(EPC)に基づく出願方法と、2つのルートが存在する。EPCに基づき出願されると、欧州特許庁(EPO)により出願から審査まで一括して行われ、その後、EPC締約国(現在、38か国)に翻訳文の提出などを行い、国内の権利を取得する。EPCに基づく出願は、一般的に、欧州において多くの国で権利を取得しようとする場合には、手続き等も簡便となることから利用されることが多い。
しかし、EPC締約国の各国ごとに特許権の登録・管理、また特許権の行使の際の裁判手続きが行われるため管理負担の問題、さらには、ロンドンアグリーメントに加盟していないEPC締約国に出願をする際に、明細書の全文の翻訳が必要となることもあり、翻訳費用の問題も指摘されている。そこで、近年実現に向けて議論されているのが欧州単一効特許である。
2.欧州単一効特許とは
現在検討されている欧州単一効特許の大きな特徴は、イタリア・スペインを除くEU加盟国(25か国)において単一的な効力を有し、一体的に権利の発生・消滅が起こる点にある。翻訳文の提出言語に関しても、原則として、各国の公用語に翻訳する必要はなく、翻訳費用の負担が軽減されることが期待されている。また、機械翻訳の利用可能性についても検討され、EPOは、機械翻訳の開発を進めている。
欧州単一効特許制度に関する議論は、2012年6月には、欧州理事会での合意など、導入に向けて前進していると言えよう。しかし、依然として実現までの見通しは明らかでないものの、欧州委員会、各国政府は、本年末の最終合意に向け、議論を進めている。
(その他参考)
産業財産権をめぐる国際情勢について 特許庁
http://www.jpo.go.jp/torikumi/ibento/text/pdf/h23_jitsumusya_txt/16_syusei.pdf