① 権利範囲
ミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム(means plus function claim)とは,機能表現を使用したクレームをいう。ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの権利範囲は明細書に記載された実施例およびその均等物に限定される(112条(f)、In re Donaldson Co., 16 F. 3d 1189, 29 USPQ 2d 1845 (Fed. Cir. 1994))。機能表現の典型例は,「means for……ing」「step for……ing」というフレーズである。ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの権利範囲は狭いと考えられており,可能であればこの種のクレームの使用は避けた方がよいと一般的に考えられている。
② ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの推定
クレームがmeans forまたはstep for、もしくは機能表現を使っているとき、そのクレームがミーンズ・プラス・ファンクション・クレームであるという推定(112条(f)の推定)がされる。一方、クレームがmeans forまたはstep for、もしくは機能表現を使っていないときは、逆の推定が働く。「means for」以外に、112条(f)の推定を呼び出す非構造的な用語とは、“mechanism for”、module for、device for、unit for、component for、element for、member for、apparatus for、machine for、system forなどがある。
③ 推定が働かない場合
原則として、構造的表現により発明を特定した場合はミーンズ・プラス・ファンクション・クレームとしては扱われない。また、その名称を聞けば明細書の記載に基づいて当業者であればその機能を実現する構造を容易に理解できる場合は、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームとしては扱われない。また、クレームがmeans forを含んでいても、その要素が十分な構造によって修飾されているときは、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームとしては扱われない。なお、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームであるかどうかの判断手法や具体例は、専門書かMPEPをあたってほしい。
④ ソフトウェアのミーンズ・プラス・ファンクション
ソフトウェアの場合は、112条(f)との関係で112条(b)の要件を満たすためには、一般目的のコンピュータを開示すれば、対応する構造を開示したことになり、その構造をクレームに記載すればミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの推定を働かせないようにすることができる。ただし、数式、文章、フローチャート、その他様々な手段によって、十分な記載をする。一般目的のコンピュータを特定目的のコンピュータにプログラムできる程度の記載が必要である
⑤ 翻訳上の問題
日本出願の特許請求の範囲を直訳すると,ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームになりやすい。日本出願の特許請求の範囲は「手段」という語を頻繁に使用するが,「手段」の訳語はmeansである。したがって,特許の知識が乏しい翻訳者が日本出願の特許請求の範囲を直訳すると,そのままミーンズ・プラス・ファンクション・クレームになってしまう。
⑥ configured節とthat節
ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの推定を避けるため、例えば、configured toやthat節を使うことを推奨する米国の特許弁護士がいる。これらの特殊表現は代理人とよく相談の上、採用の可否を判断することが望ましい。