103条は,特許を受けるための要件として非自明性(unobviousness)について規定している。103条は次のように規定している。
発明が102条に述べたように全く同一のものとして開示又は記述されていないとき,特許を求める主題と先行技術との差異が,その技術分野において通常の知識を有する者にとって,その主題が全体として発明のなされた時点において自明であった場合は,特許を受けることはできない。特許性は,発明のなされ方によって否認されてはならない。
2011年リーヒー・スミス・米国発明法(the Leahy-Smith America Invents Act: AIA)によって、102条の先行技術の定義がが大きく変更されたため、実質的に全く新しい規定に生まれ変わった。 新法と旧法の並存する2つの非自明性の問題は先行技術の定義の違いから、基本的には別の規定である。
なお、便宜上、2013年3月16日より前の法律を旧法、以降の法律を新法とするので、ご留意されたい。
また先願主義と先発明主義が重複して適用される場合の取り扱いについては割愛した。
① 新法での非自明性
発明が102条によって開示されていないにしても,先行技術から自明なものは特許を受けられない。なお,103条における「先行技術」は,必ずしも102条の先行技術とは明示していない。しかし,「先行技術」という文言はその前の「発明が102条に述べたように全く同一のものとして開示又は記述されていないとき」というフレーズを受けているため,103条における「先行技術」は102条における先行技術をいうと解される。
103条の先行技術となるのは, 102条(a)(1),(a)(2)にいう先行技術である。なお、102条(a)(2)にいう先行技術とは「公開され又は公開されたものとみなされた出願に記載され、その特許又は出願が他の発明者を記名しており、かつそのクレーム発明の有効出願日前に有効に出願されていた」発明であるが,これも自明の根拠となる。この扱いはわが国の特許法と相違する。
② 旧法での非自明性
2012年3月16日以前に有効出願日を有する係属中の特許出願および旧法下で付与された特許に対しては、旧法が引き続き適用される。旧法での103条は、条文の構成は異なるが、非自明性の根拠とされる102条の規定が先発明主義に基づく複雑な規定であったため、根拠とされる先行技術が大きな問題となる。
旧102条の規定は必ずしも発明の開示に関連しない規定を含んでいたが(例えば,旧102条(c)及び旧102条(d)),旧103条の先行技術となるのは,前記規定を除外した旧102条(a),(b),(e),(g)にいう先行技術である。
旧102条(e),(f)または(g)による先行技術とクレームされた発明がそれらの発明時において同一の発明者によって所有されているか,あるいは同一人に譲渡すべき義務があるときは,拒絶の根拠とならなかった(旧103条(c))。
これは現行法の扱いと同じであるが、現行法の102条(b)(2)(C)に該当する規定は旧103条(c)に規定されていた。このように,同一発明者による発明は旧102条(e),(f)または(g)による先行技術として非自明性の根拠とすることはできない。
③ 自明の判断手法
非自明性の判断基準は,以下に述べるグラハム・ディーレ判決(Graham v. John Deere Co., 383 U. S.1, 148 USPQ 459(1996))によって基本的な枠組みが確立され,その後,KSR判決によって修正を受けた。KSR判決は,グラハム・ディーレ判決によって示されたTSMテスト(teaching‐suggestion‐motivation test)を硬直的に適用すべきではないとし,より柔軟な判断基準を確立した。
事実調査におけるクレームされた発明と先行技術との差異の認定は,MPEPに記載されている要領で行われる。クレームされた発明の範囲は,明細書と一貫した,最も広い合理的な解釈(broadest reasonable interpretation consistent with the specification)によって決定される。審査官は,103条に基づいて拒絶理由通知を発行するとき,審査官は証拠を提示して「一応自明」(prima facie case of obviousness)を立証する。
発明が自明であるか否かの判断は,2007年に最高裁から下されたKSR判決 (KSR International Co. v. Teleflex Inc. (KSR), 550 U.S.‐‐‐, 82 USPQ2d1385(2007))に基づいて行われる。KSR判決は,従来のグラハム・ディーレ判決(Graham v. John Deere Co.,383U. S.1,148USPQ459(1996))で示された基準を,自明の判断基準のための一般的な枠組みとして再認定した。その一方で,教示-示唆-動機テスト(teaching‐suggestion‐motivation (TSM) test)を過剰に硬直的かつ形式的に適用することは誤りである,と結論している(MPEP2141, I)。
④ 自明への反証方法
非自明性の欠如に基づく拒絶に対して,出願人の典型的な反論は大きく分けて以下のようなものがある。
- 引用例を組み合わせることの教示,示唆または動機がない(improper motivation)。
- 引用例を組み合わせるteaching or motivationが存在しない。
- 引用例を組み合わせたとしても,unsatisfactory for its intended purposeとなる。
- 引用例の組み合わせが,引用例のprinciple of operationを変えてしまう。
- 本発明はunexpected resultsを生み出す。
- 引用例がincompatibleか,その組み合わせがinoperableため,引用例を組み合わせることができない。
- クレームされたあるelement not present in cited artであるため,引用例を組み合わせてもクレームされた発明の複製とはならない。
- 引用例の1つがteach awayをしている。
- 引用例がanalogous prior artではない。
- 審査官の拒絶はimproper hindsightに基づいている。
⑥ 特許弁護士への指示
米国の特許弁護士に対しては,引用例と本発明の違いを分析した上で,前述したどの主張を行うのかを指示する。具体的には,例えば「improper motivationに基づいて反論してほしい」旨の指示をする。