(1)112条(a)
112条(a)は,次のように規定している。
明細書は,その発明のまたは最も関連性が近い分野の当業者がそれを使用し製造することが可能となるように、発明と、十分、明瞭、および簡潔に、かつ正確な用語をもってそれを製造し使用する態様およびプロセスの記述を含み,発明者または共同発明者が最善と信じる発明の態様を提示しなければならない。
すなわち,112条(a)は,明細書は次の3つの事項を含ませなければならない旨を規定している(MPEP2161)。
- 発明の記述(written description requirement)
- 発明を製造し,使用する態様およびプロセス(enablement requirement)
- 発明を実施するための最良の形態(best mode requirement)
① 発明の記述要件
記述要件(written description requirement)とは,出願人が発明を他の発明や技術と区別できるように明確に記載しなければならないことをいう 。すなわち,記述要件を満たすとは,最初の提出された明細書がクレームに対して適切な裏付け (adequate support)を提供していることである。
② 発明の実施可能要件
実施可能要件(enablement requirement)とは,その発明を製造し,使用できる程度に記述しなければならないことをいう。実施可能とは,当業者が過度の実験(undue experimentation)なしにその発明を実施できることをいう。クレームの範囲が広すぎるため,一部に過度の実験なしには実施できない範囲があると,実施可能要件を満たさない。112条にいう実施可能要件は,101条の有用性の要件とは,異なる性質のものである。101条では,発明の用途を開示すればよいのに対して,112条はその使用がどのように行われるかの開示を求めている点で異なる。
③ ベストモード
ⅰ)無効理由からの除外
旧法では、記載要件(112条)に規定した要件を満たさないことは、特許の無効の抗弁となっていた。記載要件とは、上で述べたとおり、記述要件(written description requirement)、実施可能要件(enablement requirement)、ベストモード要件(best mode requirement)の3つを含むものである。2011年リーヒー・スミス・米国発明法(the Leahy-Smith America Invents Act: AIA)では、282条(3)(特許の無効)が改正され、112条の3つの要件のうち、ベストモードを開示していないことによって特許のクレームが無効にされたり、権利行使不能とされることはないという例外が追加された。
ⅱ)ベストモード
ベストモード(best mode)とは,発明者が最良と信じる発明の態様(ベストモード)をいう。発明者は,二級の実施例であるものを開示して,最良の実施例を隠すことは認められない。ベストモードは,例えば,好ましい条件の範囲に含まれるものとして,または一群の化合物に含まれるものとして,記載されていてもよい。
(2)112条(b)
112条(b)は,次のように規定している。
明細書は,出願人が自己の発明と信じる主題を具体的に特定し,明確に請求した一又は複数のクレームで完結するようにしなければならない。
112条(b)は,以下の2つの要件に分けられる。
- クレームには,出願人が自己の発明であると信じる主題を記載する。
- クレームは,特許権によって保護される主題の境界を特定し,明確に定義する。
具体的には、出願人はその出願における辞書編集者(lexicographers)となる。その意味は,出願人はその発明の本質を表す用語を自由に選択し,その意義を定義することができる。クレームが明確であるかどうかの具体例の一部としては、例えば、クレームの幅(範囲)が広いからといっても,必ずしも不明確とはならない、とされている。一方、程度を表す相対的な用語を使用すると,クレームは不明確になる。また、1つのクレームで狭い数値範囲と広い数値範囲の両方を含む場合は,クレームは不明確となる。具体的な工程を示さず,例えば「……を利用する方法」という表現を用いたユース・クレーム(use claim)は,不明確とされる。一般的なオムニバス・クレームは,拒絶される。その他具体例は専門書をあたってほしい。