2011年リーヒー・スミス・米国発明法(the Leahy-Smith America Invents Act: AIA)の新しい先発明者先願主義(first-inventor-to-file system)に基づく102条は、2013年3月16日以降の出願日又は優先日を有する特許出願に適用される。
なお、便宜上、2013年3月16日より前の法律を旧法、以降の法律を新法とするので、ご留意されたい。
102条は次のような規定である。
102条.特許要件;新規性
(a) 新規性;先行技術 - 人は、以下の場合を除き、特許を受けられる-
(1) そのクレーム発明が、そのクレーム発明の有効出願日前に、特許され、印刷刊行物に記載され、公に使用され、販売され、又はその他公衆に入手可能であったとき;又は
(2) そのクレーム発明が、151条によって発行された特許、又は122条(b)によって公開され又は公開されたものとみなされた出願に記載され、その特許又は出願が他の発明者を記名しており、かつそのクレーム発明の有効出願日前に有効に出願されていたとき
(b) 例外 -
(1) そのクレーム発明の有効出願日前1年以内にされた開示 - そのクレーム発明の有効出願日前1年以内にされた開示は、以下の場合は、そのクレーム発明について(a)(1)項における先行技術とはならない
(A) その開示が発明者、共同発明者、又はその主題をその発明者又は共同発明者から直接的又は間接的に取得した他人によってされた場合;又は
(B) その開示された主題が、そのような開示の前に、発明者、共同発明者、又はその主題をその発明者又は共同発明者から直接的又は間接的に取得した他人によって公に開示された場合
(2) 出願および特許に現れる開示 - 開示は、以下の場合は、クレーム発明に対する(a)(2)にいう先行技術とならない。
(A) その開示された主題が発明者又は共同発明者から直接的又は間接的に取得されていた場合
(B) その開示された主題が、そのような主題が(a)(2)にしたがって有効に出願される前に、発明者、共同発明者、又はその主題をその発明者又は共同発明者から直接的又は間接的に取得した他人によって公に開示された場合
(C) その開示された主題およびクレーム発明が、クレーム発明の有効出願日より遅くないときに、同一人により所有されているか、又は同一人に譲渡する義務に服するものである場合
(1)改正の概要
① 三つの主義
AIAによって先発明者先願主義が導入されたが、先発明主義は旧法でされた出願には依然として適用され、また混成が平行して導入されたため、結果として3制度が乱立することとなった。
- 先発明主義(旧102条)
- 先発明者先願主義(新102条)
- 混成主義(新102条、旧102条(g)、旧135条、旧291条)
② 発明日の排除
102条(a)(1)および(a)(2)では、発明日という基準を含んでいない。代わりに、そのクレーム発明の有効出願日が基準となっており、それ前に存在していた文献または発生した出来事が先行技術となる。したがって、いわゆるswear behindをすることはできない。
③ 原則と例外
102条(a)(1)では、原則として新規性を失わせる行為が列挙され、それに対する例外として102条(b)(1)が設けられている。同様に、102条(a)(2)では、先願の特許または公開公報に基づく新規性を失わせる開示が列挙され、それに対する例外として102条(b)(2)が設けられている。
④ 「その他公衆に入手可能」である先行技術の追加
102条では、先行技術は「その他公衆に入手可能(otherwise available to the public)」であったものを含むとされている。すなわち、旧102条にはなかった、先行技術の包括的(catch-all)なカテゴリが追加されている。「その他公衆に入手可能」と「販売(on sale)」との関係については改正法成立直後から様々な議論がある。
⑤ インタフェアレンス(interference)の廃止
新法では、先発明主義の根拠となっていた旧102条(g)が削除され、先発明者先願主義に移行したことから、最先の発明者を争うインタフェアレンスは廃止された。一方、真の発明者を争う手続として冒認手続(derivation proceeding)が設けられている。
(2)102条(a)(1)の内容
102条(a)(1)は、「(1) そのクレーム発明が、そのクレーム発明の有効出願日前に、特許され、印刷刊行物に記載され、公に使用され、販売され、又はその他公衆に入手可能であったとき」は特許を受けられない旨を規定している。
(3)102条(b)(1)の例外
102条(b)(1)は、102条(a)(1)に対する例外を規定している。すなわち、102条(b)(1)に該当するものは、102条(a)(1)にいう先行技術にはならない。102条(b)(1)の例外として、具体的には、以下の3つの開示は先行技術とはならない。
● グレースピリオド内発明者開示の例外(grace period inventor disclosure exception)
● グレースピリオド内非発明者開示(grace period non-inventor disclosure exception)
● グレースピリオド内中間開示の例外(grace period intervening disclosure exception)
具体例1(以下の場合、発明者Aは特許を受けられる)
具体例2(以下の場合、発明者Aは発明者Bの開示を克服して特許を受けられる)
① 「開示」
102条(b)(1)(A)(および102条(b)(1)(B))の「開示(disclosure)」については、条文は明確な定義を与えていない。また、102条(a)(1)および102条(a)(2)においても「開示」という用語は用いられていない。しこの点については販売行為や販売の申し出との関係で議論があることを申し添えておく。
②グレースピリオド
102条(b)(1)(A)(および102条(b)(1)(B))は、有効出願日前の1年の期間をグレースピリオドとして認め、この期間にされた開示が一定条件を満たす場合にクレーム発明に対して先行技術とならないとしている。
③ 102条(b)(1)(A)の例外の詳細
ⅰ)グレースピリオド内発明者開示の例外(grace period inventor disclosure exception)
102条(b)(1)(A)は、102条(a)(1)に対する第1の例外を規定しており、発明者自身の創作を先行技術から除外している。その開示が発明者または共同発明者によるものであることが明らかではない場合、宣誓書または宣言書を提出することによって、その開示が102条(b)の例外規定によって102条(a)の先行技術に該当しない旨を立証することができる(規則1.130)。これについては、旧102条で要件となっていた「他人」であるかどうかを立証するための実務(MPEP2132.01)が準用される。
ⅱ)グレースピリオド内非発明者開示
グレースピリオド内「非発明者」開示(grace period non-inventor disclosure)は、一定の条件を満たしたときは、その開示は先行技術とはならない(102条(b)(1)(A))。具体的には、その開示がグレースピリオド内(有効出願日前1年以内の期間内)であって、さらに、その開示した者が発明者ではなく、その主題をその発明者又は共同発明者から直接的又は間接的に取得した他人(冒認者)である場合をいう。
④ 102条(b)(1)(B)の例外の詳細
102条(b)(1)(B)は、102条(a)(1)に対する第2の例外を規定しており、発明者等の開示の後に生じた開示を先行技術から除外している。グレースピリオド内中間開示の例外(grace period intervening disclosure exception)は、具体的には、その開示がグレースピリオド内(有効出願日前1年以内の期間内)にされ、さらに、その開示がグレースピリオド内の発明者開示(grace period inventor disclosure)またはグレースピリオド内の「非発明者」開示(grace period non-inventor disclosure)の後であることが条件となる。102条(b)(1)(B)の規定は、中間開示の発明と、発明者等によって開示された発明とが同一であることが条件となる。何が同一であるかはさておき、102条(b)(1)(B)では、「同一」という文言はないが、米国特許商標庁は、発明が同一であることを前提としていると公式に述べている。
(5)102条(a)(2)の内容
102条(a)(2)は、「(2) そのクレーム発明が、151条によって発行された特許、又は122条(b)によって公開され又は公開されたものとみなされた出願に記載され、その特許又は出願が他の発明者を記名しており、かつそのクレーム発明の有効出願日前に有効に出願されていたとき」は特許を受けられない旨を規定している。旧法では、いわゆるヒルマードクトリン(Hilmer Doctorine)に基づき、拒絶の根拠として引用される特許または特許公開公報の日付は、「米国での出願日」とされていた(In re Hilmer, 359 F.2d 859, 149 USPQ 480 (CCPA 1966))。これに対して、新法では、先行技術となる米国特許等が外国優先権主張を伴う場合、米国特許等は米国での出願日ではなく、(外国での)最先の出願日から先行技術として扱われるため、ヒルマードクトリンは事実上廃止となった。
(6)102条(b)(2)の例外
102条(b)(2)は、102条(a)(2)に対する例外を規定している。102条(b)(2)の例外とは、具体的には、以下の3つの場合である。
ⅰ)非発明者開示の例外(non-inventor disclosure exception)
ⅱ)中間開示の例外(intervening disclosure exception)
ⅲ)同一人による所有の例外
(7)グレースピリオド内開示の例外の立証
グレースピリオド内発明者開示の例外等のようなグレースピリオド内に開示があった事実の立証は、所定の手続によって行う。このとき、開示を行った者が発明者であるか、冒認者であるかによって、あるいは最初の開示であるか、中間開示であるかによって、それらの手続内容、手続時期、提出する証拠等が異なる。詳しくは米国特許商標庁発表のガイドラインを参照するか専門書をみてほしい。
また、一定の継続出願については以下のようなステートメントの提出が義務付けられた。2013年3月16日当日またはそれ以降に出願される非仮出願が、2013年3月16日よりも前の先の外国出願、先の仮出願、または先の非仮出願の出願日の利益を主張するものであり、かつ、2013年3月16日当日またはそれ以降の有効出願日を有するクレームを含む場合は、その非仮出願の実際の出願日から4ヵ月以内、国際出願の国内移行の日から4ヵ月以内、または先の出願から16ヶ月以内のいずれか遅いときまでに、その旨を記載した陳述書を提出しなければならない。
(8)論点
① 混成
混成の対象となる出願については、新102条、旧102条(g)、旧135条、旧291条が適用される。この混成の対象になった場合 は、審査では先後の関係が逆転する可能性があるため、十分に先後を精査する必要がある。あるいは、事前に、混成の対象とならないように、出願の内 容や時期を十分考慮する。
② 先開示主義
先発明者先願主義の特徴は先開示主義にある。例えば、発明者Aと発明者Bがそれぞれ独自に発明を完成させ、発明者Aが先に発明を開示した後、発明者Bが米国特許出願を行い、その後に発明者Aが特許出願を行ったとする。米国では、発明者Bによる発明iについての米国特許出願Yは、中間開示の例外により、特許出願Xの審査において先行技術としては扱われない。よって、発明者Aは、他の拒絶理由がない限り、特許を受けられる。
③ 公ではない活動
公ではない活動をめぐって様々な議論がある。102条(a)(1)の各行為は常に公(public)である必要があるのかという論点である。要するに、102条(b)の例外が適用される条件となる「開示」(disclosure)という用語の解釈が問題となる。旧法では一定の「公ではない行為」(秘密行為)によって新規性を失うことがあったが、新法ではこの解釈がそのまま存続するのかどうか。この論点は新法の根幹を揺るがす問題となっている。
④ バイパス継続出願
バイパス継続出願をする理由は、旧102条(e)の先行技術としての地位が認められる日の取扱いの違いにあった。しかし、新法では102条(e)がなくなり、先行技術としての地位が認められる日付が有効出願日に統一されたため、バイパス継続出願の意義は失われてしまったかのようにみえる。また、バイパス継続出願は約30ヶ月の期間にわたり、混成主義下出願となる可能性が考えられるので、慎重に見極める必要がある。