米国特許法における特許権の効力は271条に規定されています。特許発明を特許権者の許可なく実施する行為は侵害となります。侵害は、直接侵害(direct infringement)と間接侵害(contributory infringement)に分けられます。直接侵害は最も一般的な侵害であり、製造、使用、販売の申し出、販売、および輸入の5つの態様に分けられます(271条(a))。
直接侵害(271条(a))
271条(a)は「米国内で、特許権の存続期間中に、特許発明を承諾なく製造、使用、販売の申し出、販売または輸入する者は、特許を侵害する。」と規定しています。
侵害の基本的考え方
クレームにA、B、Cからなる装置が記載されていたとき、その一部だけ(例えば、A、Bのみ)を製造した場合、侵害は成立しません。ただし、間接侵害(271条(c))が問題となることはあり得ます。特許発明の製造等は、特許の存在を知らなくても、あるいは侵害する意図がなくても、侵害とされます。この点で侵害の意図の存在を要件とする著作権侵害とは異なります。特許侵害の成否が争われているときに、故意または過失の不存在を理由に抗弁を行っても有効ではありません。製造、使用、販売の各行為についていずれか1つの行為をすれば侵害が成立します。
製造
「製造」とは、動作可能な集合体に実際に組み立てることをいいます。最終製品として動作可能なように完成させることが直接侵害の要件となります。ディープサウス社は装置の部品をセット販売し、ユーザはこれを購入し、組み立てて使用するものでした。この場合、直接侵害は成立しません。このディープサウス・ルールによれば、単に部品を製造しただけでは直接侵害は成立しません。ただし、間接損害が問われることはあり得ます。
修理
製品の修理(repair)が「製造」に該当するかについては、一般的には、部分的修理や部品の交換は「製造」に該当せず、直接侵害とはなりません。しかし、製品全体を再生(reconstruction)するような場合は直接侵害となります。
使用
「使用」の意義について争いが生じることは少ないです。「使用」とは包括的な用語であり、その発明を作用状態に置くことをいいます。
オールユース・セオリー
特許権者が予期せず、または開示していない目的で特許発明を使用しても、侵害を免れることはできません。例えば、特許権者が特許発明であるファスナーを衣服に使用する目的を開示したとして、被告がポケット本にそれを使用したときも侵害となります。要するに、特許権の効力はすべての使用に及びます(オールユース・セオリー:all uses theory)。
販売
販売とは、契約の成立、そして製品の引渡しが完了することをいいます。したがって、特許に係る製品の販売契約がなされただけでは、販売とはなりません。ただし、「販売の申し出」に該当し、侵害を問われることはあり得ます。販売が成立するためには、契約が完全に履行され、すなわち販売品が購入者の手元に届かなければなりません。
消尽
特許権者から購入した製品を第三者に転売する行為は、侵害とはなりません(アダムス・バーク理論)。特許権者が製品を販売した時点で、特許権が用い尽くされたと考えられるからです(消尽説)。
販売の申し出
「販売の申し出」は、ウルグアイラウンドで合意されたTRIPS協定28条に侵害の一態様として明記されており、この協定を遵守すべく1994年改正法により271条に追加されました。特許発明を現実に販売しなくても、「販売の申し出」を行っただけで侵害行為となります。「販売の申し出」とは、例えば販売のために製品のデモンストレーションを行う行為、販売のための製品の展示行為などをいいます。
方法特許の侵害行為の拡張
271条(g)によれば、「特許された方法により製造した物を輸入、販売、販売の申し出、または使用をした者は、侵害者として問われる。」とされています。旧法では前記行為は侵害とされていなかったため、特許権が及ばない外国で物を製造し、米国に輸入するという行為が問題となりました。そこで、1988年の方法特許改正法(Process Patent Amendments Act)により、方法特許に対する侵害行為を拡張し、前記行為を侵害とすることとしました(271条(g))。