ワーナー・ジェンキンソン事件は、特許法における均等論の適用範囲をめぐって発生した著名な裁判であり、その判決は特許法の権利解釈に大きな影響を与えました。この事件は、ヒューズ事件以降のフレキシブル・バーとコンプリート・バーの間で揺れ動いていた権利解釈の混乱に終止符を打つべく、1997年に最高裁までもつれた特許法の重要な事件です(Warner-Jenkinson v. Hilton Davis Chemical, 41 USPQ 2d 1865 (1997))。この事件は後にフェスト事件につながり、均等論に関する重要な判決となりました。
原告であるヒルトン・デイビス社は、染料を多孔性の膜にpH6.0〜9.0の範囲において透過させる染料の超濾過を含む純化方法についての特許権を持っています。一方、被告であるワーナー・ジェンキンスン社は、同様の方法をpH5.0において透過させるものでした。被告の方法はクレームの数値範囲を外れているので、文言上の侵害は成立しないが、pH5.0がクレームの数値範囲pH6.0〜9.0と均等であるかどうかが争点となりました。
クレームの数値範囲pH6.0〜9.0は補正により追加されたものであり、上限であるpH9.0は先行技術を回避することを理由としていましたが、下限pH6.0は補正の理由は明らかではありませんでした。被告の条件pH5.0がクレームの数値範囲pH6.0〜9.0と均等であれば、均等論に基づく侵害が成立します。一方、下限pH6.0を補正により追加したことによって禁反言が生じれば、特許権者ヒルトン・デイビス社はそのpH6.0以下を放棄したことになりますから、侵害は成立しません。
最高裁の判決では、ヒルトン・デイビス社の特許権に対して均等論が適用され、ワーナー・ジェンキンスン社の侵害が認定されました。補正が特許性に関する実質的な理由に基づいていなかったため、禁反言は認められなかったことが判決の一部として示されました。
この判決は、特許法における文言と均等論の関係や、補正が禁反言に与える影響など、特許権の保護と公正な解釈の両立について重要な示唆を与えるものでした。均等論の適用範囲を明確にすると同時に、特許権者と被告の権利をバランス良く考慮することが、特許法の運用において重要であることを示しています。