現在のEPCには、かつての堅牢かつ緻密な特許制度の面影は微塵も残っていない。新条約EPC2000の施行後、EPCは不定期に発行される多数のNoticeによって原形をとどめなくなるほどの改正が加えられてきた。結果として、EPCは、多数の例外規定や複雑に分岐する手続きを含む、世界で最も難解な特許法に変貌してしまった。しかも、今もなお日々何の予告もなく、不定期に大小の改正が加えられ続けているのである。
事情をより複雑にしていることは、日本企業がEPCを利用する場合の多くの手続が「例外規定」に該当してしまうことにある。さらに、審査基準2010では、従来の基準に大幅な加筆・訂正が加えられている。本書は、激変するEPCの来年2011年5月1日までの最新規則とその詳細を可能な限り網羅したつもりである。
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(まえがきからの抜粋)
2011年版にあたってのまえがき
本書は、2011年1月1日施行の新規則を含むいわゆるEPC2000(欧州特許条約(CONVENTION ON THE GRANT OF EUROPEAN PATENTS)に完全に準拠した実務書である。また、本書は、「審査基準2010」(the Guidelines for Examination 2010)に完全準拠している。本書は、拙著「アメリカ特許法実務ハンドブック」の姉妹版にあたる。
本書は、旧版の80%以上を新たに書き直した。全編にわたり書き直さなければならなかった理由は、新条約EPC2000が旧条約EPC1973とはまったく異なる法律に変貌してしまったことによる。日本を含め先進国の特許法は、細かい改正を年々受けているが、どれも小修正・微調整の域を出ない。したがって、改正後も従来のプラクティスはそのまま通用することが多い。しかし、今回のEPC2000の改正は、近年の先進国の知財法の改正の中でも、最もドラスティックなものとなった。
EPC2000の発効によって、欧州特許条約は先進性に富んだ革新的な法律に生まれ変わった。実務レベルの規定を「条約」から、改正が容易な「規則」に移すことによって、時代にニーズに合わせて、機敏に規則を改正できるようになった。ところが、この機敏性が、従来から伝統であった保守性を完全に打ち崩すことになった。
そして、欧州特許庁は対話よりもルールを重視するようになり、これまでに考えられなかったような、出願人に対する「義務」や「強制」を求めるようになってきている。例えば、サーチレポートに応答しなければ出願が放棄扱いになる、というのはかつての穏やかな欧州特許庁では考えられなかったアンフレンドリーな姿勢である。
EPC2000以降、欧州特許庁は待望されていた革新的な改正を矢継ぎ早に取り入れ、その結果、欧州特許条約は再び世界の知財制度を牽引するフロントランナーに返り咲くこととなった。それに伴い、出願人に対する要求や義務はいっそう厳しいものとなっている。そのようなEPC2000の実務上のポイントは、本書を活用される実務者の方々が直面する個々の手続や応答の場面で、本書を紐解きながら、経験していって頂ければ幸甚である。